気付けば、食卓に並んでいた料理はほぼなくなっていて。もう満腹だ。本当に美味しかった。
「ほんとは大好きな子に東京になんか行ってほしくないんだもんねえ?」
「……そんなこと言ってねえだろ」
「思ってるけど?」
「姉ちゃん!」
「あはは、うそうそ、冗談」
……そっか。
遠距離恋愛になったって、先輩となら大丈夫だろうって勝手に安心していたけれど。そういえば先輩はどう思っているんだろう。
そんな話、一度だってしたことがなかった。先輩の彼女になれたことが嬉しくて、ちょっと浮かれすぎていた。
綾さんが食器を下げ始める。ごちそうさまでしたと告げると、彼女は目を細めて笑ってくれた。
片付けはあたしもお手伝いすることにした。先輩も綾さんも気にしなくていいと言ってくれたけれど、あんなに美味しい夕食をご馳走になっておいてなにもしないなんて、ちょっと居たたまれない。
その代わり先輩にゆっくりしてもらうことにした。それは綾さんが「晶ちゃんとふたりで話したい」と言ったからってのもあるんだけど。彼はとっても嫌がっていたけれど、お姉さんの命令は絶対らしく、最後には上手く丸め込まれていた。
あたしも燿に対してこれくらいの権力を持てるようになりたい。うちはたぶん、どちらかというと弟政権だ。