綾さんは誘導尋問がとても上手で、気付けば先輩との歴史をすべて話していた。出会いから、付き合うことになったあの日まで。そりゃあもう事細かに。
彼女は終始にこにこしながら聞いてくれた。先輩は時々「もういいよ姉ちゃん」とぼやいていたけれど。
「……そっかあ。てことは、ふたりは春から離れ離れなんだね」
S大に合格した。そのことを話すと、「すごいねえ!」と目を輝かせたあとで、綾さんは少しだけ声のトーンを落とした。
遠距離恋愛になるかもしれない。それは今朝、燿にも言われたことだった。
先輩とそういう話をしたことはなかったけれど、彼はちゃんと分かっていたみたいで、そうだよと一言つぶやく。
「大丈夫なの、健悟」
「なにが?」
「あんた、遠恋なんて絶対できないでしょう」
「……できるよ」
「うそ! そんな余裕なんか全然ないくせにー」
「できるって」
コンソメスープが冷えていた。冷めても美味しいそれを一気に飲み干すと、ふと、綾さんと目が合った。
「こいつねえ、ほんとはすっごい淋しがり屋なの。まあヘタレだから浮気する度胸もないと思うけど、だから、あんまり放ったらかしにしてやらないでね、晶ちゃん」
優しく揺れた瞳に吸い込まれそう。このひとは紛れもなく先輩のお姉さんなんだって、そのあたたかい微笑みを見て実感した。