先輩の家の庭のガーデニングはすごかった。名前の知らないかわいい花がたくさん咲いていて、ちょっと気が引けた。どうやらお母さんの趣味らしい。

連れられるがままそのなかに足を踏み入れると、すぐに美味しそうな香りが鼻をかすめた。そういえばお腹が空いている。


「お、おじゃまします……」


動きたがらない脚を一生懸命に動かした。リビングにはご家族が勢ぞろいなのだろうと思っていたのだけど、お父さんとお母さんらしきひとはいなかった。

その代わり、それ以上に熱烈に迎えてくれた女性がいて。


「あー! いらっしゃい!」


カウンターキッチンからひょこっと顔をだしたこのきれいな女性こそ、たぶん。先輩のお姉さんで間違いないだろう。

彼女はあたしを見つけるなり、急いで料理中の手のひらをタオルで拭いて、キッチンから駆け足でこちらにやって来た。


「きゃーほんとに来てくれた! ちょっとちょっと健悟、美人な子じゃないのー! お名前は?」

「ひっ、東出晶です!」

「晶ちゃん。名前もかわいい! わたし、健悟の姉の綾(あや)っていいます。仲良くしてねー!」


先輩が女性だったらこんな顔だっただろうなあ。そんなふうに思うほど、ふたりは本当によく似ていて、びっくりした。思わず見比べると、先輩と目が合った。彼は相変わらず困った顔をしていた。


「晶ちゃん、お腹空いてる? いちおう煮込みハンバーグ作ってみたんだけど、嫌いじゃない?」

「ハンバーグ大好きです!!」

「よかったあ。じゃあ早速準備するから、ソファにでも座ってくつろいでて。立ち話もなんだし、ご飯食べながらゆっくりお話しましょ」

「はっ、はい!」


にこっと笑った綾さんにぽうっと見とれていると、彼女はそのまま健悟さんの背中をばしっと叩いて。「あんたも手伝うんだよ」なんて強気で言うもんだから驚いた。

先輩が見事に尻に敷かれている。彼が普段とても優しいのは、このお姉さんの教育ありきのことなのかもしれない。