待ち合わせ場所に行くと、やっぱり先輩はすでにそこにいた。まだ3分前だっていうのに。このひとに待ち合わせで勝利したことは一度もない。おかしい。


「健悟さんっ」


もうずいぶん自然と呼べるようになったその名前。それでも、なんだか恥ずかしくて、先輩以外のひとの前ではどうしても「先輩」と呼んでしまうのだけど。

彼は顔を上げて、やっとこっちに気付いた。でも、いつもはすぐに「よお」と言ってくれるのに、きょうはそれがない。


「……健悟さん?」

「え、あ……ああ、ごめん。ちょっと見とれてた」

「は!?」

「マジで全然分かんなかった。すげーかわいいじゃん。びっくりした」


このひとは恥ずかしいことを平気で言う。大真面目に言う。嘘がつけない、素直な、とても天然なひとなんだと思う。

その天然に振り回されるあたしもあたしだ。またきょうも初っ端から顔が熱い。


「えっと……実は日和に見繕ってもらって」

「へえ! そっか、あの子ってそっち系の道に進むんだっけ?」

「そうですよー。だからきょうのこと言ったらすっごく張り切っちゃって、もう大変」

「あはは、なんか想像できるなあ」


自然につながった手のひら。いつも先輩からつないでくれる手を、恥ずかしがらずに、いつかちゃんと自分から握れるようになったらいい。

先輩の手はごつごつしているけどふかふかしていて、つなぐたびにとても安心する。春から遠距離恋愛になるっていうのに、ぶっちゃけ全然不安を感じられなくて、逆にこわいくらいだな。