怒るあたしになんかおかまいなしに、先輩は能天気にからから笑っている。おまえの情報は燿から筒抜けだぞ、なんて言って。
なんだかすごくむかついた。だから握っているココアの缶をその頬に押し付けてやった。
それなのに。先輩の大きな手があたしのその手をそっと包むから、このひとには敵わない。
「……でも。だから、大切にしてやってほしい、って」
「え……」
「あはは、泣かせたら燿にぶっ殺されそう」
微笑んだ顔はそのままで、ふと、先輩の顔が真剣になった。
「大切にするよ」
真っ直ぐな目をしたひとだなって、最初に会ったとき、思ったんだ。
とても優しく笑うひとだなって。優しくてあたたかい、嘘のないひとだと思った。
「……先輩の」
「ん?」
「全部を……あたしはこれから、ひとりじめできるんですか」
「うん。できるよ。……してよ」
奇跡みたいだ。
好きなひとに好きになってもらえるということが、どんなに幸せなことなのか。こうして触れ合えることが。笑い合えることが。
その全部がどんなに奇跡的なことなのか、実感して、また景色がゆがむ。
「あはは、また泣くのかよ」
「……だって」
「燿にも見せてやりてえな」
「ちょっと!」
「わはは、うそ。こんなにかわいい晶、燿にだって見せたくない」
もしかしたら先輩は恥ずかしいことをさらりと言うタイプの人間なのかもしれない。突然顔が熱くなって、涙も引っ込んでしまった。
「今度デートするか。晶の合格祝いに」
「い、いいんですかっ」
「おー。どこ行きたいか考えといてな」
先輩が笑う。さあ帰るかと差し出された手をじっと見つめていると、彼のほうからあたしの左手を迎えに来てくれた。
手をつないで帰る夜道は、その暗闇すら、全然こわくなんてなかった。先輩は無敵だ。