たった3文字なのに。その3文字を口にするのは今世紀最大に難しくて、燿はどうしてあんなにさらりと呼べているんだろうと、馬鹿みたいなことを疑問に思ってしまうほど。

それでも先輩が、あまりにも優しい目で顔を覗きこんでくるから、もう逃げられない。


「け、けん……ご、さん」

「うん」

「……健悟、さん」

「ん」

「健悟さん。……えと、好きです」


言えた。顔は見ることができなかったけれど。……それでも、ちゃんと言えた。

勢い余ってまた告白してしまった。


「うん。俺も」

「えっ、あ……!」


その瞬間。

安堵と喜びのせいで緩んだくちびるを、べつの温かいなにかが覆った。それが先輩のくちびるだって認識するのに、3秒かかった。

温かくて優しい、生まれてはじめてのキス。

まるで吐き出した吐息まで全部奪われてしまったみたい。心臓の音が身体中を駆け巡って、あんなに寒かったはずなのに、沸騰しそうだよ。


「……晶」

「……ひ、ひえっ……」

「ぶふっ。あはは、ムードねえな!」


変な声が出てしまった。それと同時に、真剣な顔をしていた先輩が思いきり笑った。

……しまった。恋愛慣れしていないこと、ばれたかも。


「晶のファーストキス、ごちそうさまでした」

「な!? なんではじめてだって知ってんですかっ!」

「だっておまえ、いままで彼氏いたことないんだろ。燿に聞いたぞ」

「えっ!?」


なんであいつはこう、しゃべらなくていいことまでしゃべるんだ。やっぱり帰ったらシメてやる。