燿にいちばんに報告しようと思った。

自慢してやろう。おまえの大好きな健悟さんはもうあたしのだぞって。……まあ、そんなの恥ずかしくて冗談でも言えないだろうけど。


「……晶」

「はい……」

「ちょっとさ、練習してみ」

「はい?」

「『健悟』って呼ぶ練習、してみ」


……はい?

泣くのも忘れて、ぽかんと彼の顔を眺めていると。先輩は拗ねたようにくちびるを尖らせて、びっくりするほどかわいい顔をした。


「だってやだよ。俺は名前で呼んでんのに、彼女にはよそよそしく『水谷先輩』って呼ばれるとか。温度差じゃん」

「……ぷっ」

「なに笑ってんだよー」


先輩のこんな顔、はじめて見た。これからいろんな顔が見られるのかと思うとどきどきして、わくわくして、泣いている暇なんてもうない。

……あたし、先輩の彼女になったんだ。


「ほら、早く言ってみ、『健悟』な」

「ふふっ」

「笑うなって」

「はあい」


息を吸って、吐いて。気合を入れるために背筋を伸ばすと、ばちっと目が合った。

とたん、なんだか猛烈に恥ずかしくてたまらなくなって。


「……け、けん、け……」


冗談じゃなく、驚くほど上手く言えないんだ、これが。