先輩は駅の裏の公園で歩みを止めた。自動販売機でホットココアを買うと、それをあたしの頬にぴとっと押し付けた。素直に受け取ると、冷えた指先に熱が伝わって、痛いほどだ。
「ありがとうございます……」
「おしること迷ったけど」
「あたしが甘党だから?」
「そう」
言いながら笑って、彼がベンチに腰かけたので、その隣にちょこんと腰かけてみる。かじかんでプルタブに引っ掛からない指がもどかしい。
すると、右側から伸びてきた大きな手がそれを優しく奪って。次に戻ってきた缶はプルタブが上を向いていた。
たったそれだけ。それだけなのに、お腹の下あたりが痛くなるほどときめいて、もう死ぬのかとすら思う。恋は病気だ。
ずずっとすすったココアの甘さにさえ泣きそうになった。
この公園は、灯りが少ないせいで、夜になるとほとんど人がいなくなる。だから実質ふたりきりだった。
駅は明るく賑やかだけど、そんなのどこか違う世界みたいに感じる。
「……ずっと、連絡できなくてさ、ごめんな」
「い、いや! あたしのほうこそ!」
言い逃げして本当にすみませんでした。
「受験がどうのって言ってたからやめといたほうがいいんじゃないかと思って。……でも、きのう燿から合格したって連絡が来て、どうせならちゃんと会いたいと思ってさ」
「……はい」
「まずは合格おめでとうだなー。S大に推薦合格っておまえやばいな、マジで。なに食ってんだよ?」
「きっ、きのうはエビフライでしたっ」
「あっはっは! オッケー、俺もあしたエビフライ食うわ」
先輩が笑ってくれる。それだけで充分なのに、どうしてこんなにも振られることをこわいと思ってしまうのだろう。自分のわがままさが嫌になる。