「でもおまえさー」
キッチンから声がした。視線をテレビから移さずに「なに」と答えると、うどんを作り終えた燿がどんぶりを持ってソファに戻ってきた。今夜の夜食は月見うどんらしい。
「地元離れるんじゃねえの?」
「なんで?」
「S大の推薦きてんだろ」
そんなことより、うどんにも容赦なく醤油をぶっかける弟が姉は心配でたまらんよ。
「あー……うん」
「健悟さん地元だし、もしそうなったら面倒じゃね?」
「なにが」
「遠恋になるってことじゃん」
「いや、話が早すぎてついていけないんだけど。なにを前提に話してんだよ」
「健悟さんと晶が付き合うことを前提に話してる」
馬鹿もここまでくると病気だな!
涼しい顔で醤油味のうどんをちゅるちゅる食べる燿を横目に、顔が火照った。なんなんだ、こいつは。恥じらいってもんがないのか。
「……なに照れてんだよ。気持ちわりーな」
「あんたのほうがよっぽど気持ち悪いでしょーが」
「大切なことだろ。おまえはぜってー遠恋できないよ」
あんたはあたしのなにを知っている。恋愛なんかしたことない青くさいガキのくせに。
いや、あたしが知らないだけなのかな。もしかしたら燿には彼女がいるのかも。
たしかに、この歳になってわざわざ彼女いるとかいないとか、姉ちゃんに言ったりしないか。