「――木下。ウィンターカップも、次のインハイも。俺たち行くつもりだからさ。……おまえも、見に来いよ」

「東出……」

「俺たちみんな、ちゃんとおまえのこと覚えてるよ。おまえも一緒に全国行くんだからな」


ごめん、と。木下のくちびるがそう動いたと同時に、彼は中庭のど真ん中で身体を丸めた。つまり、驚くことに、木下は土下座していた。

びっくりした。燿も、大河くんも、あたしも。さすがに目が点だ。


「い、いや……なにもそこまで……」

「オレ、ただ淋しかっただけなんだ……。もうみんなオレのことなんか忘れてんじゃないかって……、それなのに勝手に勘違いして、取り返しのつかないことして……ごめん。東出、ごめん……っ」

「もういいって。顔上げてくんねーと俺がマジでキツイ」


燿は優しい子だ。

自分にも甘いけど、そのぶん他人にも甘い。口が悪いのはあたしに似てしまっただけで、性格はマイルド王子って感じ。倫もよく「ひかるは倫の王子様」って言っている。

いやあ、見た目的にはお世辞にも王子ってわけにはいかないんだけど。


「木下。おれも燿と同じように思ってる」

「大河……」

「おまえも相当つらかったのに、ごめんな。おれキャプテンなのにな」


あたしもなにか部活をやっておけばよかったかな。

3人がなんだか羨ましくて、すでに青春をまぶしく思った。まだ仮にもあたしだってぴちぴちのJKなのに。


……まあ、なにはともあれよかった。のかな。

そっとその場を離れようとすると、燿の「マジでありがとな」という声が飛んできたので、返事の代わりに右手をひらひら振っておいた。

本当に手のかかるやつ。

だけど、世界でいちばんかわいい、あたしの弟。たったひとりの弟。


そしてもちろん、そのあとで日和にキャラメルマキアートを買ってこなかったことを物凄く突っ込まれたのだけど。すっかり忘れていた。ちくしょう。帰ったら燿に文句言ってやろう。