「おまえ、こんなとこで喧嘩なんかやめろよ。推薦取り消されるぞ。それに仮にも女なんだから、もっとおしとやかにしてろって」

「うるさい! そんなの関係ねーよ! 離せ! あたしはこいつを一発殴るんだ!」

「姉ちゃんっ……!」


頼むよ、と。燿がその場にしゃがみ込んだ。あたしの右の手首はぎゅっと掴んだままで。

その肩は小刻みに震えていた。燿は……泣いていた。


「……ほんとは悔しくてしょうがねーよ。でももうどうしようもねーことだからって、がんばって納得しようとしてんだよ。……なのに、おまえがそんなふうにキレたら、泣けるじゃんか……」

「ひかる……」

「……ありがと。晶。……ありがとな」


年甲斐もなく、たまらず。その頭を抱き寄せていた。よしよし撫でると、ずびっと鼻をすする音がしたあとに、「なんだよ」という声が腕のなかから聴こえてきた。


「……ほんとに泣き虫なんだから」

「……泣いてねーし」


かわいくないやつ。でも、かわいいやつ。

すると、弟は突然顔を上げて、涙で濡れたその瞳をあたしの顔にずいっと近づけて。へらりと笑った。


「おまえのおかげですっきりしたわ!」


そう言い放つと、あたしの頭を撫でて、そっと立ち上がった。燿のくせに。あたしの頭を。撫でやがった。気持ち悪い。


「なっまいき……」


いったい弟はどこでこういうことを覚えてくるんだろう。