どうやら大河くんが弟を連れてきてくれたらしい。そういえばさっきから大河くんの姿が見えないと思っていた。
「なに言ってんの……。このまま泣き寝入りする気? あんた、こいつのせいで怪我したんでしょう」
「もういいんだ。おまえがどんなに怒っても俺の脚が治るわけじゃねーし」
そうだけど。……そうだけど。
どうにも納得できないよ、そんなの。
「……燿が、もういいって思ってても。あたしはよくねーんだよ」
「あきら」
「あんたは黙ってて! これはあたしと木下の喧嘩なの! だからっ……早く謝れ! 燿に謝れよ!」
あたしが怒っても、木下が謝っても。燿の脚が治るわけじゃない。そんなの分かっている。
でも、だからって、黙っていられるわけがないでしょう。
かわいい弟が怪我させられてんだよ。決勝に出られないんだよ。いままでの努力が……全部、水の泡なんだよ。
朝早くに出て、夜は遅くに帰ってきて。馬鹿みたいに食っては寝て。
弟の生活の中心には、いつもバスケットボールがあった。
「なんのために燿はがんばってたの!? どうしてこんなことで諦めなくちゃいけないの!? 一発ぶん殴ってやらないと気が済まない……っ」
足は地面を蹴っていた。右の拳はもう振り上げられていた。
それでもそれを止めたのは、弟だった。
「晶っ、……もう、いいから……!」
全然よくなんかねーよ。