木下がこっちを睨んだ。そして一言、「謝らない」とつぶやいた。
なんだと、このクソガキ。
「だいたいあんた、関係ないじゃん。オレと東出の問題だろ」
関係ない、関係ない、って。燿もこいつも、揃ってそんな淋しいことを言う。
たしかにあたしは関係ないけれど。もう燿は、あたしが頭を撫でてやらなくても平気なのかもしれないけれど。
でも、いまは。
「あんたとあたしの問題だろーが!」
「はあっ?」
「だせえっつってんの。いつまでもウジウジウジウジ、男が情けねーんだよ。いつまでもバスケ部に固執して? ネチネチ妬んで? しまいには燿に怪我までさせて? あんたこれ犯罪だよ? 分かってんの?」
そろそろ舌を噛みそうだ。
「あんたになにがあったのか知らないけど。こんなしょうもないことしてる暇があるなら、もっと自分のために時間使えよ。バスケができなくなったならほかに趣味探せよ。まだ17歳だろ。
……あんたみたいなやつに弟の努力を踏みにじられたことが、あたしは許せない」
「――あきら!」
まだまだ言ってやりたいことはたくさんあった。でも、耳に馴染んでいる声が鼓膜を揺らしたので、あたしの口は動きを止めた。
「……もう、いいよ。やめろよ」
その言葉にたまらず振り向くと。右足だけクロックスを履いた弟が、こちらを真っ直ぐ見つめていた。