入学早々、弟は迷うことなくバスケ部に入部した。その初日にでてきたのが『大河』と『木下』だった。
すげーやつらがいるんだって、勉強はだるいけど部活が楽しいからがんばれそうだって。
でもいつからだったか、そのうちに、『木下』の名前は消えていて。……もしかしたらあれは、この男のことだったのかもしれない。
「……淋しかったんだよ……。楽しそうに部活やってるみんなが、羨ましくて妬ましくて、しょうがなかった。膝の怪我さえなかったらいまごろオレだって……!」
高校生って、親が鬱陶しかったり、校則が窮屈だったり、制服がまどろっこしかったり。そういう時期だと思う。もう自分は大人なのにって、あたしだって何度も思ったよ。
さすがにいまは卒業を目の前にして、もう少し高校生のままでいたいなあなんて思ったりもするけれど。
でも。燿だって、木下だって、まだまだ17歳の子どもなんだ。
大人になりたくてもなりきれない、感情のコントロールすら上手くできない。そんな時期なんだろう。だからきのう、燿は泣かなかったんだ。
「……だっさ」
だからといって、そんなもんは知らん。あたしにはなにも関係ない。むかつくもんはむかつくんだからこっちも言わせてもらいたい。
「だっさ。幼稚園児かよ。あんたの都合なんか知るか。勝手に逆恨みして、うちの弟になんてことしてくれてんだよ」
みんなきっと、大小の差はあれど、どこかに傷を負って生きている。それは木下も同じなんだろう。
……でも、あたしはあいつの姉ちゃんだから。
「謝って」
「え……」
「燿にちゃんと謝って。謝ったからといって許されることじゃないけど、とりあえず謝れ」
たとえ木下にそれなりの都合があろうと、いつだってあたしは燿の味方になる。そのためなら世界中にだって喧嘩を売ってやる。