大河くんが喧嘩なんてめずらしい。それともカツアゲ? 一見とってもいい子が実は裏で悪いことしているって転かいは、結構世の中のテッパンだったりするし。
いやいや、大河くんに限ってそんな。いやでも。
「そういうわけじゃない。ただ、おまえの話が聞きたくておれは」
「大河はいつもそうだよ。そうやって、誰にでもいい顔して、優しくして、八方美人でさ。おまえみたいなのがいちばんタチ悪いんだ。ほんとはオレのこと殴りたくてしょーがないくせに」
「なんでおまえはそんなにひねくれてんだ……」
もしかしてこの話、長引いたりするのかな。
昼休みも残り15分を切っているし、次は体育だし、キャラメルマキアートはもう諦めようか。状況を説明すれば日和だって分かってくれるはずだ。
「はっきり言えばいいじゃん。悔しかったら、オレのこと殴って、どうしてくれるんだって、燿はうちのエースだぞって、ブチギレればいいだろ? 中途半端に優しくするなよ」
突然登場した弟の名前に、動きかけていた足が止まった。そして身体が強張った。
「……今朝、東出とすれ違ったんだ。目は合わなかったけど、なんも言われなかった。オレに気付いてないわけがないのに、責めなかったんだ、あいつ」
「燿は……そういうやつだよ」
「馬鹿みたいだろ。オレ、惨めで惨めで……どうしようもないよ。オレがあいつを階段から突き落としたのに」
頭に血がのぼるとわけが分からなくなってしまうところ、もう18歳なんだし、仮にも女だし、いい加減に直したいんだけど。
もうすでにストッパーはぶっ壊れていた。知らない下級生相手に啖呵を切るのは生まれてはじめてだ。