試験の出来はどうだった、この古典の問題かなり性格悪いなあ、まあおまえなら合格してるだろ。池ちゃんとはそんな会話を10分くらいした。


「じゃ、失礼しましたー」

「おお、わざわざありがとな。試験お疲れさん」


ぺこりと頭を下げると、彼は愛妻弁当を食べながらにこっと笑う。50歳を超えても愛妻弁当を作ってくれる奥さんと、きちんと残さず食べきる池ちゃんに、ちょっとほっこりした。


さてと。あとは日和にキャラメルマキアートを買うだけだ。

3年5組、自分の教室へ続く階段をスルーして、中庭にある自動販売機へ向かう。昼休みはみんな結構自分の教室でお昼をするので、この昼休み真っ只中の中庭ってのは穴場だ。

小鳥たちのさえずり、遠くから響く生徒の笑い声、風が吹き抜けていく心地いい音。真上から差す太陽の光が温かくて、思わず目を細めて空を見上げた。


「――なんでオレが謝らなきゃならないんだよ」


そんなきれいな空間に落ちたそれは、なんだかとても黒い声だと思った。

下級生だろうか。男の子の低い声がしたので、反射的に身を隠し、息をひそめてしまう。

いやいや、違うわ。なんであたしが隠れてんだよ。こっちはキャラメルマキアート買いに来ただけなんですけど。おいおまえ、そこだよ、おまえの隣にあるその自動販売機だよ。


背の高い男の子だった。その向こう側に、彼よりも背の高い男の子がもうひとりいた。

一瞬、喧嘩かな、と思ったのだけど。なんだか緊迫していたし。

それでももうひとりのその男の子がよく知っている子だとすぐに分かったので、少し安心した。大河くんだ。