・・・
翌日は、あたしほど遅くなかったけれど、弟はいつもよりゆっくり家を出ていった。それでも大切そうにバッシュを抱えて出ていった背中を見て、どうしても、言葉をかけることができなかった。
「――あ、そうだ。ちょっと進路指導室行ってくる」
そして昼休み。弁当を早々に食べ終え、席を立ったあたしを、日和の大きな瞳が見上げた。
「どしたの?」
「きのうの試験問題持ってこいって、池ちゃんがね」
池ちゃんってのは3組のクラス担任で、進路指導の主任の先生。小太りだけどいつもニコニコしていて、冗談は言うけど真剣に相談に乗ってくれる。そして手を抜くやつは許さない。
そんな、厳しいけど優しい、うちの学年でいちばん人気のある先生だ。ちなみに担当教科は国語。うちのクラスには古典を教えに来てくれている。
「んん、じゃあ帰りにキャラメルマキアート買ってきてほしい~」
「えー。だったら日和も来いよ」
「まだお弁当残ってるもん」
ちくしょう。そんなふうに上目づかいで見られたら、断れるものも断れなくなってしまうじゃないか。
その代わりと言わんばかりに、自分のお弁当箱のなかからエビシュウマイをひとつ選んで。ほい、とあたしの口に入れてくれる日和には、やっぱりどうしたって勝てないな。
「ん、美味しい。ホットでいいの?」
「うん、ホットでお願いしますー」
「はいはい。じゃあいってきます」
「いってらっしゃーい」
試験問題を胸に抱いて、日和から預かった100円玉をポケットに忍ばせて。教室を出ると11月の風が足を撫でて、とても寒かった。
翌日は、あたしほど遅くなかったけれど、弟はいつもよりゆっくり家を出ていった。それでも大切そうにバッシュを抱えて出ていった背中を見て、どうしても、言葉をかけることができなかった。
「――あ、そうだ。ちょっと進路指導室行ってくる」
そして昼休み。弁当を早々に食べ終え、席を立ったあたしを、日和の大きな瞳が見上げた。
「どしたの?」
「きのうの試験問題持ってこいって、池ちゃんがね」
池ちゃんってのは3組のクラス担任で、進路指導の主任の先生。小太りだけどいつもニコニコしていて、冗談は言うけど真剣に相談に乗ってくれる。そして手を抜くやつは許さない。
そんな、厳しいけど優しい、うちの学年でいちばん人気のある先生だ。ちなみに担当教科は国語。うちのクラスには古典を教えに来てくれている。
「んん、じゃあ帰りにキャラメルマキアート買ってきてほしい~」
「えー。だったら日和も来いよ」
「まだお弁当残ってるもん」
ちくしょう。そんなふうに上目づかいで見られたら、断れるものも断れなくなってしまうじゃないか。
その代わりと言わんばかりに、自分のお弁当箱のなかからエビシュウマイをひとつ選んで。ほい、とあたしの口に入れてくれる日和には、やっぱりどうしたって勝てないな。
「ん、美味しい。ホットでいいの?」
「うん、ホットでお願いしますー」
「はいはい。じゃあいってきます」
「いってらっしゃーい」
試験問題を胸に抱いて、日和から預かった100円玉をポケットに忍ばせて。教室を出ると11月の風が足を撫でて、とても寒かった。