さっき弟に向けて放った抱き枕が、今度はあたしの腹に飛んできた。見ると、上半身を起こした燿がこっちを睨んでいた。
「――うるせえんだよ!」
すぐに機嫌が悪くなるし、気分屋だし、わがままだし。おまけに甘ったれで生意気で。ぶっちゃけ、弟の面倒なところなんか挙げ始めたらキリがない。
でも。思えば、この子が自分のことで感情的に怒ったことなんて、きっと一度もなかった。
だから少しびっくりしてしまった。身体も大きくなって声も低くなった弟が本気になると、こんなにも迫力があるのかと。
「おまえになにが分かんの。応援してるとか、そういうの、押し付けんな。なんも知らねーくせに勝手なこと言ってんじゃねーよ!」
「はっ……はあ!?」
今度は逆ギレか。なのに、そうかと思えば前髪をぐしゃっと掴んで、ばつが悪そうにあたしから視線を外す。
「……わりい。でもいまは放っといて。頼むよ。晶の顔見てんのしんどいわ」
「燿……」
泣いてくれたほうがまだましだ。というより、ちゃんと泣いてほしかったから、必要以上に怒ったんだけど。
もっと、キレて泣いて、八つ当たりしてくればいいのに。そしたら全力で応戦してやるのにな。それですっきりするならどんだけでも喧嘩してやる。
でも弟はいま、必死に、軋む身体を引きずりながら、大人になろうとしているのかもしれない。
「……ごめん。ひとりになりたい」
「……分かった。お母さんが心配するから、ご飯はちゃんと食べなよ」
あたしが思っているよりもずっと、弟は、大人になっているのかもしれないな。