燿はベッドに仰向けの状態で寝転んでいた。ちらりと、あたしの姿を確認するように一瞬だけこっちを向いたけれど、その視線はすぐに漫画に戻っていった。
表情も変わらないし、言葉すら無い。一言で言うととても感じが悪い。
「……燿」
「……」
「おい、燿」
「……」
これは相当ふてくされているな。
本当に面倒なやつだ。自分の不注意で怪我したくせに。
「無視かよ」
「……うるせーな、放っとけよ」
「だったらその構ってオーラをどうにかしろ」
「そんなオーラ出してねーし」
「出てんだよ」
日和の前ではあんなにいい子ぶっていたくせに。
拗ねるしかできない、子どもみたいな弟に心底腹が立って、漫画を取り上げてやった。同時に「なんだよ」という情けない声が聞こえた。
「試合は? 結局出れないの?」
「……医者も、大河も、コーチも、ダメだって」
「男がもごもごしゃべんな」
「だってうぜーもん。おまえに関係ねーじゃん」
言いながら、ごろりと背を向ける。本当にかわいくない男に育ってしまったなあと、大きくなった背中を眺めて思った。
昔はすぐに泣く子だった。悲しいときも、むかつくときも、痛いときも、淋しいときも。どんな感情が湧きあがっても、燿は泣いていた。
頭をよしよしすると嬉しそうに「おねえちゃんすき」と言っていたころが、いまではもう夢のようだよ。
あの天使はどこに行ってしまったんだろう。