燿はいちおう怪我人なので、玄関までの見送りはあたしだけ。お母さんはリビングからひょこっと顔を出して「日和ちゃん、わざわざありがとうねえ」と申し訳なさそうにしていた。


「そこまで送るよ」

「いいよー。いまは燿くんの傍にいてあげて」

「あんな年中発情期のサルなんかどうでもいいわ」

「もー。だからそれは違うんだって」


そう言いながら、彼女は歯を見せて困ったように笑う。その顔はどこかすっきりしているように見えたので、ちょっとだけ安心した。

ついおととい田代と別れたみたいだから。目を腫らしていたこと、言わなかったけれど、実は心配していたんだ。


「あ! それより晶、受験お疲れさまだったねー! 合格祝いしないとっ」

「いやいや、まだ合格が決まったわけじゃないよ」

「えー晶なら間違いなく合格でしょー。むしろそんなの嫌味にしか聞こえないよ?」


いや、たしかに落ちる気なんか毛頭ないけれども。

来週は日和も専門学校の試験があるみたいだ。ふたりで受かっていればいいな。そしたらなにか美味しいものでも食べに行きたいなって、親友の赤くうるんだ目を眺めながら思った。


「……日和。あいつに会いに来てくれてほんとにありがとね」

「ううん。燿くん、いまは元気に見えるけど、最初はベッドできゅーって丸くなってたんだよ。相当ショック受けてるんじゃないかなあ」

「まあそうだろうね……」

「ちょっと強がりなとこあるから心配。そういうとこ、晶とすごく似てるから」


こんなに素敵な友達を持てたことは、しょうもないあたしの人生のなかで、最高に幸せなことだと思う。それは燿にとっても同じなんじゃないかな。


「弱音とか、そういうの、全部吐かせてあげなよ。なんだかんだで燿くんって、晶にしか甘えられない部分もあると思うんだ」

「そうだねー。喝入れてやんないと」

「もう、ホント厳しいんだから」


分かっている。あいつはいま死にそうなほどの絶望感に襲われているんだろうってこと。甘ちゃんだもん。平気なわけがない。

日和に別れを告げて、その足で、もう一度弟の部屋に向かった。