日和の顔を上げさせる。そのときに彼女のやわらかな髪が指先に触れて、女の子だなって思った。

当時に、弟と親友がそういう事態になりかけたということを嫌でも実感して、なんとなくぞわっとした。べつに嫌悪しているってわけではないんだけれど。

それとも、いちいちそんなことを想像してしまうあたしがおかしいのか。


「……うん、話は分かった。今回のことはふたりの問題だし、あたしに怒る権利はないね。ごめん。それに間違いはなかったみたいだし。……燿も。言い訳も聞かずに蹴り上げて悪かった」

「べつに。……俺も、ちょっと軽率だったと思う。八つ当たりだよ、こんなの」


しゅんと口を尖らせて目を伏せるので、伸びてきた前髪がその長い睫毛にかかった。弟の卑怯だと思うところは、こういう何気ない仕草にもある。


「じゃあわたし、そろそろ帰るね。燿くん……ごめんね。ありがとう」

「ううん。俺も。実は結構マジでやばかったから、会いに来てくれてホント嬉しかった」


ずっと、日和がこいつのお姉ちゃんになってくれたらいいのにって思っていた。優しくてかわいい、いい姉になってくれるんじゃないかって。燿も日和になついているみたいだし。

でもたぶん、それは違うんだろうな。

燿は女の子として日和が好きで、日和も同じように、ちゃんと燿を男の子として見てくれていて。だからこんなにもちょうどいい距離感を保ったまま、仲良くできるんだ。


ただ、あたしには分からない言葉を交わすふたりの雰囲気は昔とずいぶん違っていて、ちょっとだけ。

ほんのちょっとだけ、淋しい気がした。