最後の物理がなかなかに難しかったな、と思った。それでもまあ大丈夫だろうと思いつつ、落としていたスマホの電源を入れた。

するとびっくり。LINEが10件も入っていたもんだから、何事かと思う。

大河くん、日和、それからお母さん。そこには『燿』という文字が飛び交っていて眩暈がした。みんなあたしの試験なんか無視で、あいつの話題ばっかりかよ。

それでも。

よくよく読んでみると、……なんだって? 捻挫?


「なにしてんのあいつ……」


たしか、決勝戦はこの週末だと言っていなかったっけ。なのに、お母さんから来ていた長文には『全治3週間』とも書いてある。

……ちょっと、これって大丈夫なの。

なにしてんの。馬鹿なの。バスケ部に不可欠なエースなんじゃないの。


気が付いたら試験会場を飛び出していた。無意識のうちに地面を蹴った自分の足に驚いている余裕すらなかった。

だって、わけ分かんねーよ。馬鹿のくせにバスケすらできなくなったら、燿はこの3週間、なにをしていればいいの。


マッハで帰った。お金があればタクシーでも使ってやろうかと思ったくらい。電車に乗っている時間が死ぬほどもどかしかった。

玄関でローファーを脱ぎ散らかして、心配そうな顔をするお母さんを振り切って。ノックをしなかったのは許してほしい。それくらい切羽詰まっていたんだ。


「――ひかるっ!」


それなのに。


「……え?」


おいおい。うちの弟がまさかここまでのクソ野郎だったとは。