「――ひかるっ!」


部屋のドアをノックしねえってのも遺伝子に関係あんのかな。制服姿のまま現れた姉からは、ついさっきまで試験だった雰囲気がまったくもって感じられなくて、びびる。

つか、やべえ。まだ日和さんの服が。……服が、はだけてんのに。


「……え?」

「えっ!?」


晶と日和さんが同時に声を漏らした。俺はというと、そんなふたりとは全然違うほうへ、そっと視線を逸らした。

でも、うちの姉はそんなに甘いやつじゃないわけで。目を逸らしたからといって簡単に逃がしてくれるわけがねえんだ、これが。


「燿……あんたなにしてんの……」

「いやー、とりあえずまず話聞いてくれねーかなー……」

「聞く言い訳なんかひとつもねーよ! こんのクソ野郎が!!」


空を切る音が聴こえた気がする。と思ったときにはもう、その足は俺の右腕にクリーンヒットしていた。

腕、マジで折れたかと思った。右脚の痛みが一瞬で吹き飛んだ。バキッつったぞ。おい。仮にもバスケ部の主力だぞ、俺。


「捻挫したとか早退したとか色々と聞いたから! 心配して急いで帰ってきてやったのに! なにちゃっかりよろしくやってんだよ!」

「だから違うんだって……聞けよ……」

「日和も日和だよ! うちの弟たぶらかすなっ」


こうなったら晶は手が付けられない。思わずため息をつくと、もう一度すげえ回し蹴りが一発飛んできた。

もう大学行くのなんかやめて空手家でも目指せばいいのに。


「……あたしの心配返せ、馬鹿野郎」


それでも、鬼のような姉ちゃんがふいに泣きそうな顔をしたから、右脚の捻挫が突然じんじんと痛んだ。なんで晶が泣きそうなんだよ。

鬼の目にも涙だなって言ってやりたかったけど、なんかしゃべったら俺も泣いてしまうような気がして、なにも言えなかった。