いますぐにでもここから出ていってほしい。これ以上いっしょにいると、優しい彼女にこの黒い感情をぶつけてしまいそうだから。
それなのに日和さんは、出ていくどころか、俺をぎゅっと抱きしめやがった。小さな身体を震わせて。
「わ……わたし、そうくんと別れたから……!」
「え……」
「だから……燿くんの彼女になるっ……」
優しすぎるのも罪だと思う。
このひとは、そんな口先だけの言葉で俺を騙せるとでも思ってんのかな。舐められたもんだな。やっぱりガキだと思われてんのか、俺。
だって、俺はちゃんと知っている。
それは愛情じゃなく、ただの安い同情だってこと。
俺の気持ちと向き合ってくれているわけではないってこと。
日和さんにとって俺なんかしょせん、晶の弟っていうポジションでしかないんだ。
「……もういいよ、日和さん。ありがとう。じゅーぶん」
「わたし本気だよ……!」
「嘘つくの下手すぎだって」
「嘘じゃないっ」
一瞬、噛みつかれたのかと思った。
気付いたら、彼女の顔がぼやけるほど近くにあって。その折れそうに細い10本の指が優しく頬を包み込んでいて、くちびるには温もりを感じる。
「……ほら。嘘じゃないよ」
ゆっくりと距離が生まれた。そのときやっと、もしかしてキスをされたのかと、ポンコツの脳ミソが判断した。おせえよ。