目を閉じた。このまま永遠に目が覚めなければいいのに、なんて。馬鹿なことを結構本気で思った。


ふと、コンコンという遠慮がちなノックのあとに、がちゃりとドアが開く音がした。また母さんかな。寝たふりしとこう。

もういまは、誰かとしゃべるのもしんどいよ。



「――燿くん」


それなのに。鼓膜を揺らしたのは、いちばん聴きたくていちばん聴きたくなかった、優しい声。


「日和さん、なんで……」

「突然ごめんね。怪我したって聞いて……きょうは晶もいないから心配で。……大丈夫?」


大丈夫なわけねーよ。

優しい日和さんの、優しすぎる同情の眼差しがつらくて、逃げるように目を逸らした。さすがにかっこ悪すぎだな、俺。


「……燿くん」

「わりいけど、きょうは帰って」

「でも……」

「今度の試合、出れねんだって、俺。告白も無かったことにしてくれていいよ。正直いまはそれどころじゃねーしさ」


情けなさとか、恥ずかしさとか、やりきれなさとか。色んな負の気持ちが心のなかでぐちゃぐちゃになって、処理が追いつかない。

本当は泣いて、その胸に甘えたかった。でも日和さんは俺の恋人じゃない。


部活も、恋愛も、ついでに言うと勉強も。なんも上手くいかねえ。もう全部どうでもよくなってきた。

晶が羨ましくてしょうがねーよ。あいつの人生は全部が完璧に上手くいってんだもん。

弟の俺は甘やかされて、人生イージーモードで育ってきたけど、たぶん。これはいままで甘えていた分のツケなんだろうな。情けねえ。