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生まれてはじめてだ。こんなに死にてえと思ったのは。

最悪だ。なにしてんだ、俺。なんで家のベッドで寝てんだよ。あと3日で決勝だぞ。練習しねえと身体なまるじゃん。


「燿、ごはん……食べる?」

「いらねーよ。マジでいまは放っといて」


母さんの申し訳なさそうな顔にすら苛々した。なんだか居たたまれなくて、ベッドに寝転んだまま背を向けると、静かにドアが閉まる音がした。


結論から言うと、俺の右脚は重度の捻挫らしい。完治には最低でも3週間かかると言われた。だから試合なんてとんでもないと。もちろん部活もダメだと言われてしまった。

学校はそのまま早退してきた。正直きょうはもう、授業なんか受ける気になれなかった。


不思議と涙はまったく出なかった。その代わり、家に帰るなり、トイレにこもってひたすら吐いた。胃のなかが空っぽになるまで吐いた。

パートから帰ってきた母さんが俺の顔を見て驚いていた。事情を話すと、彼女は泣いて、小さな身体で抱きしめてくれた。


たかが部活なんかで。とは、自分でも思う。

バスケで生きていこうなんて思っていないし、ましてや選手生命にかかわる致命的な怪我ってわけでもない。3週間寝てりゃ治る捻挫だ。

でも、いまの俺にとっては、たしかにバスケがすべてで。


「あー、死にてー……」


木下も1年前はこんな気持ちだったのかな。全然分かってなかったよ。この痛みはきっと当人じゃなきゃ分かんねーもんなんだろうな。

目の前が真っ暗で、なんも見えねえわ。ちくしょう。