今朝もなにも変わらない、いつもと同じ朝のはずだった。

体育館に行けば大河やチームメイトたちがいて、テキトーに挨拶を済ませたらストレッチして。軽く走ってシュート練習して、それで。あー部活終わったら英単やんねーと。


いつもと同じ朝。違うと言えば、晶が受験のために早く出ていったくらいだ。

体育館へ向かう途中の階段を下っている途中で、まさか誰かに突き落とされるとか、想像すらしねえよ。するわけねえ。

完全なる不意打ち。気付いたら俺の足の裏は地面から離れていた。


「――はっ……?」


それは明らかに悪意を持った手のひらだった。

軽快に階段を下りていた脚はちゃんと踏ん張ってくれない。スクールバッグとバッシュを抱えているせいで両手をつく余裕もない。

ただ景色はスローモーションで回転して、うわ落ちてんじゃんと思ったときにはもう、俺の身体はいちばん下まで来ていた。


「いってえ……」


反射的に階段のいちばん上を見上げる。昇りたての朝日が照らしたその顔は、去年の冬にバスケ部を去った、木下(きのした)のものだった。

まだ頭は混乱したままで、身体も痛くて。全然わけ分かんねーけど、あいつが俺を突き落としたということだけはすぐに分かった。


「……っにすんだよ! 殺す気かこの野郎!」

「ああ。殺してやりたいよ」

「はあ……?」

「なんでおまえまだ部活やってんの? なにがエースだよ。死ねよ」


背中がそくりとした。声に、言葉に、たしかに殺意がこもっている。


「ずっと考えてたんだ。東出のこと、いちばん絶望させるにはどのタイミングがいいだろうって。この瞬間を待ってた」


直感的に、こいつはやべえと思った。