誰かを想ってなりふり構わず泣ける人間が、この世界にどれくらいいるんだろう。
俺は日和さんのために泣けるかな。すげー好きだけど、泣くのはちょっと違うんじゃないかって思う。それは俺が男だからかもしんねーけど。
倫の涙が、俺のグレーのスウェットに黒いシミを作っていく。じわじわ広がる黒色はどこかあたたかくて、腕のなかの小さな女の子の気持ちそのもののような気がした。
「……あのさ。倫にはずっといねえっつってたけど、ほんとは俺、好きな子がいる。いっこ年上のひとな。もうずっと前から好きだったし、こないだとうとう好きだっつった」
「……付き合ってるの?」
「ううん。保留中。……でもまあ、彼氏いるし、振られると思う」
「ひかる振られるの……?」
「たぶんな」
自分で言っておきながら思わず苦笑した。
「だから、倫の気持ちには答えられねんだ。それが最大の理由。分かってくれるよな?」
「……分かんない」
「倫、いいかげんにしろって」
「だってひかる、振られるんでしょ? だったら倫でいいじゃん。ひかるの良いところ分かってない女なんかより、倫のほうが絶対ひかるのこと幸せにできるもん……!!」
小さな手が拳を作って、俺の胸を殴る。全然痛くはなかった。だから黙ったまま抵抗しないでいると、そんな俺の態度が気に入らなかったのか、今度は本気で殴ってきやがった。さすがにいてえ。
そして「ばか」とつぶやくと、そのままベッドから飛び降り、ドアを思いきり開け放って。
「倫、まだ振られてないから!!」
それだけ吐き捨てて、倫は部屋から消えた。追いかける気にはなれなかった。追いかけたところでどうすることもできねーし。
「マジか……」
参ったな。倫のこと、女の子として好きにはなれねえけど、とても大切に思っているということ。どうしたら上手いこと伝わるんだろう。
眠てえよ。
まぶたを閉じると、日和さんと倫の顔が同時に浮かんで。疲れているはずなのに全然眠れねーから、嫌になる。