「倫は、倫は……ひかるだからこんなことするし、こんなこと言うんだよ?」
「はいはい、分かってるよ」
「分かってないもん!」
ずっと俺の胸に押し付けられていた顔が突然がばっと俺を見上げた。驚いた。
でももっと驚いたのは、倫が馬鹿みてえに泣いていたからだ。
「ひかるは、いつもぜんぜん、倫のことなんか相手にしてくれなくて。女の子として見てくれなくて。いつもなんでもない顔で、妹扱いするんだもん。むかつくよっ……」
「倫……」
「倫はひかるが大好きなんだよ! ずっとずっと……ひかるだけが、倫の王子様なんだもん……!!」
王子様、て。おいマジか。そんなガラじゃなさすぎて思わず鳥肌立ったわ。
「倫は、ひかるにだけぎゅっとされたいし、チューもされたいし、壁ドンもされたいし、それからそれから……っ」
最後のほうはもう言葉になっていないほど、倫は物凄い勢いで泣いていた。おまけにわんわん喚くもんだから、これは完全に隣の部屋の晶に丸聞こえだろうな。
ぶっちゃけ、まさかこんなに本気で好いてくれているなんて思っていなかったってのが、正直なところだ。
だって、そうだろ。いつも挨拶するみたいに好きだって言ってくるんだ。そんなのいちいち本気にしてたら疲れるし、むしろ受け流すべきもんだと思っていた。
「……倫、ごめん。泣くなって」
俺だけに真っ直ぐ向けられた純粋な涙に、どうしようもなく胸が痛んで、もう一度。泣き喚く倫の頭をそっと抱き寄せていた。