「がんばったじゃん。よくやった。で?」
思わず晶が入っている布団を思いきり叩くと、痛かったのか、下からぎろりと睨まれた。
「でって……そのまま逃げてきましたけど」
「は?」
なに言ってんだこいつ。つか、なにしてんだ。
「返事聞かずに? そのまま?」
「おう……」
「はあ? しょうもねえなー」
「そんなこと言ったって……先輩困ってたし……もう死にそうだったし……」
「返事くらい図々しく要求してこいよ。逃げるとか、むしろそっちのが困るだろ。なんでおまえがいじけてんだよ」
「そうだけど! そんな余裕ねーよ! そんな恋愛マスターじゃねーよ!」
逆ギレして、いつもの通り口は悪くなったけど。シーツに顔面を押し付けながら言うもんだから、もごもごして全然聞き取れやしない。
それにしても。黙って待ってりゃ上手くいくものを、どうしてこいつは。もう俺がじれったいわ。
「健悟さんから連絡は?」
「ない」
おい。健悟さんもなにやってんだよ。
いや、まあでも、分からなくもない。好きだって言ってきたくせにすぐ逃げやがったら、言われたほうはどうしていいか分かんねえもんだよな。
たぶんいまごろ、健悟さんも同じように悩んでいるんだろう。
「あーもう振られるの待つだけだよー。もう水谷先輩に会えないよー。どうしようひかるう……」
「知らねーよ馬鹿。勝手にしろ馬鹿」
「そっ……それでも弟かあ! 薄情ものお!」
「知るか。一生やってろ」
本当に腹が立つ。
せっかく両想いなのにさ。俺と違って、晶は99%の確率で上手くいくってのに。
告白したのはがんばった。そこは評価してやろう。
でも、それ以上にネガティブで卑屈な姉が心底鬱陶しくて、そのまま部屋を出た。マドレーヌは没収だ、馬鹿野郎。