東の空はすでに紺色に染まっていた。ああ疲れたな、今晩のメシはなんだろう、なんて。気を紛らわせるようにそんなことを考えながら、足を踏みだしたとき。


「――ひかるくんっ」


鼻にかかったかわいらしい声が俺の背中を掴んだから、思わず振り返った。

振り返った視界のなかに、俺を真っ直ぐ見つめる日和さんがいた。声が出なかった。たぶん、彼女の真っ直ぐなオーラにちょっと怖気づいていた。


「ちゃんと返事するから! 大会が終わったら、告白の返事……ちゃんとするからねっ」

「日和さん……」


参ったな。振られることなんか目に見えているんだけどな。

それでも、彼女はちゃんと俺の気持ちに向き合ってくれている。ちゃんと答えを出そうとしてくれている。

それだけでもう、じゅうぶんだ。


「……うん。待ってる。試合がんばるよ、俺」

「うん。全力で応援する!」


恋愛は惚れたほうの完敗だってことくらい、ちゃんと知っていたつもりだったのに。こんなにも完全な敗北だなんて思いもしなかったな。

完全試合だ。日和さんの圧倒的勝利だなって言ったら、彼女は少し首をかしげて、笑ってくれた。