そもそもあいつ、いつからあたしを「晶」と呼び捨てにするようになったんだ。
昔は「おねえちゃん」と呼ばれていた。それが中学になって「ねーちゃん」になり、高校に上がるころには「晶」が定着していたんだっけか。
そして、もうすでに名前で呼ばれるよりも「おまえ」と言われるほうが多い。昔はお姉ちゃん子だったのに。どこで間違えた。どうしてこうなった。
いまのあいつを思えば、高い声でピーピー「おねえちゃん、おねえちゃん」とついて来ていた燿って、とっても天使だったんだよなあ。あのままでかくなってくれたらよかったものを。
「――あれ、晶じゃん」
「へっ」
「よお、偶然だな」
ふと顔を上げると、ずっと変わらない、優しい瞳があたしを見つめていた。
「み、水谷(みずたに)先輩!」
「いま帰り?」
「はいっ」
水谷健悟(けんご)先輩は、あたしたちの中学時代の先輩。バスケ部で、燿がよくなついていたので、あたしも自然に仲良くなった。
バスケの強豪校に進学した水谷先輩。茶色に染めた髪が眩しい。そっか、先輩はもう大学生なんだ。やっぱりかっこいいなあ。
「燿は元気?」
「ちょー元気ですよー。相変わらず鬱陶しいです」
「はは、そっか。仲良さそうで安心した」
だから仲良くないんですって。
でも、水谷先輩がとっても眩しい笑顔を見せてくれるから、あたしもつられてへらりと笑った。