「――プレゼント」
おじさんの低い声があんまりにも似合わない横文字をこぼした。
びっくりして思わずその顔を見つめると、彼は面倒くさそうにあたしから視線を外して、そのかわりに右手をこっちに差しだした。
「記念にやる」
なんの記念だろうと思ったけど、おじさんの右手を見てなんとなくわかったよ。
ふたりでいっしょに染めた、優しいピンクの手ぬぐい。おじさんの右手には、おとといの夜に染めたばかりの薄い布きれが2枚おさまっていた。どうやらどちらもあたしにくれるらしい。
「……いいの?」
かすれた声で聞いた。おじさんは小さくうなずいた。
あたしが染めたハートの柄の手ぬぐいと、おじさんが染めたまだら模様の手ぬぐい。受け取ると、ぜんぜん軽いのに、なんだかずしっとくるような感じ。
ふと、まだら模様のほうの端っこに、『いのり』と小さく書いてあるのを見つけた。正確には、書いてあるわけではなくて、白抜きのそういう“模様”がつけてあった。
――おじさんだ。おじさんがあのとき、ボウセンノリで『いのり』って書いたんだ。はじめからあたしにくれるつもりだったのかな?
だからって、『いのり』ってわざわざ書いてくれてるの、かわいいよ。ひらがななのがまたかわいいよ。胸がきゅっとする。15歳も年上の男に、きゅっとさせられてる。
「アリガト」
ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
だってちょっと恥ずかしかったんだ。どんな顔をすればいいのかわからないよ。
でも、ほんとにうれしかった。記念だって思った。この手ぬぐいは、あたしとおじさん、ふたりの記念。