白米としょうが焼きを交互に口を運ぶあたしを、おじさんは目の前で、頬杖をつきながら眺めている。
なんの感情もない瞳だった。ただ目に入る景色を映しているだけのような、本当にあたしがその球体に映っているのかさえあやしい。
居心地の悪いなか食事を終えて箸を置き、ごちそうさまと手を合わせたところで、おじさんはまた口を開いた。
「おまえの料理の色彩センスは、つまるところ染色のセンスにも直結してんじゃねえかって、俺は思うわけだ」
拍子抜けするほどなんでもない声だった。たぶん、きょう天気いいな、くらいのテンション。
だからうわの空で、へえ、なんて、気のない返事をしてしまった。おじさんはそれを聞いてちょっと笑った。
「褒めてんだけどな」
「え、そうなの」
「そうだよ」
わからないよ。だっていつもと変わらないトーンで言うんだもん。
おじさんは、声を荒げたり、震わせたりすることが、あるのかな。その低い声にバリエーションを持っているのかな。
そんなバカなことを思うくらい、おじさんはどんな言葉もだいたい同じトーンでしゃべる。
「おじさん、きょうはちょっとオカシイね。よくしゃべるね」
言いながら、あたしもつられてちょっと笑ってしまった。
おじさんは驚いたように目を開いた。たくさんしゃべってるの、どうやら自覚してなかったみたいだ。
「そんなこと、ねえけど。もしかしたらしょうが焼きで饒舌になったのかも」
「うそ、しょうが焼きで?」
どんだけ好きなの?
「ウソに決まってんだろ」
そうやってフツウの顔で冗談言うの、ほんとにわかりにくいからやめてほしい。
「おまえが染色に興味もってくれたことが、ちょっとうれしかったのかもしんねえな」
それもまたジョウダン? ああ、ぜんぜんわっかんない。
それに、違うよ。べつに染色に興味があるわけじゃない。おじさんと、おじさんの仕事に興味があるだけだよ。
言わないけど。
「これからアトリエ行くか」
本当によくわからない男だ。いま、なにがどうなってそういう結論に至ったのか、チョット説明してほしい。