個展『流動』は、県でいちばん大きな駅前にある、小さなビルの一角で、7月17日から開かれた。開催された初日におじさんに連れられて行った。日曜だった。
お師匠さんに会う前、おじさんといっしょにぐるりと観覧した。いろんなものが展示されていた。手ぬぐいとか、のれんとか、壁掛けとか、いかにもって感じの。
一着、着物があって、すごくきれいだと思ったよ。薄い水色の布に、やわらかいピンクの桜が散っている着物。圧倒された。まるで本当に春の空に桜が散っているみたいだった。おじさんのお師匠さんだもん、スゴイに決まっているね。
でも、やっぱり違うんだなって思う。
おじさんの作品とはぜんぜん違う。なにがって言われたらわからないけど、なんか違う。作品の全体的な雰囲気っていうのかな? お師匠さんの作品は、おじさんのに比べてとがっているような気がした。どことなく強い感じで……。
染めものって、簡単そうに見えるけど、誰にでもひょいひょいできるものじゃない。もろにそのひとのセンスが出るから。
フロアの一角には、おじさんの作品も、あたしの作品もあった。やっぱりちょっと恥ずかしかった。おじさんは「いいな」って言ってくれたけど、こうして見るとあたしに染めものは向いてないって思うよ。
「どうもお疲れさまです、真鍋(まなべ)さん」
ぐるりとまわったあと、和服を着た、いかにもそれっぽい初老の男性に、おじさんが声をかけた。
「ああ、佐山くん……と、きみが中澤祈さんですね? はじめまして、真鍋稔(ミノル)といいます」
なんだ。ぜんぜん『コワイじいさん』じゃなさそうじゃん。小柄なこともあってか、むしろおじさんよりもうんと優しそうに見えるよ。
こんなおじいさんがあの力のある作品を染めたのかって、変に感心してしまう。
「はじめまして、中澤祈ですっ」
「佐山くんから聞いていたとおり、かわいらしいお嬢さんですね」
そんなことを言っていたのか。と、うれしさ半分、照れくささ半分でおじさんを見上げても、彼はいつもの真顔で。
なんだ、真鍋さんのお世辞か、わかってたけどさ。