外の景色から視線を前へ向けると、ゆりあが僕の方を見ていてゆっくり目を細める。


「忘れたくないなあ」


きみが小さく笑った。


「優太とこうしていられる瞬間ひとつひとつを、ずっと覚えていたい。忘れたくないの」


その瞳にうっすらと水の膜が張ったように見えるのは、僕の気のせいではないだろう。


何も言えない。


こういうときに限って、言葉がでてこないんだ。


唇をぐいと噛み締める僕に、きみは言う。


「……ねぇ、優太。つらそうな顔しないでよ。優太のそんな顔、私は見たくない」

「だって、それはゆりあが、」


言いかけて、僕は言葉をつまらせる。


ゆりあはまた、笑った。


「ふふ、ごめんね。私がこんな悲しい話したからだよね。ごめん、優太」


子どもをなだめるような言い方で僕の顔を見つめて、眉を寄せるゆりあ。


こんな顔をさせてしまって申し訳ないと情けなく思っていると、それを見たゆりあが僕が悲しんでいると判断したらしい。


「……優太が笑えるおまじない。特別だからね」


何を言われたのかその意味を理解できないまま、というか理解する隙を与えてもくれぬまま、気付いたときにはきみの唇が僕の唇に触れていた。


それはきっと1秒にも満たないほど短い時間。


けれど、僕はその温もりをはっきり覚えている。


いつの日か触れた温もりと、今日この瞬間の温もりが、僕の中で完全に一致した。


ああ、僕の大好きなゆりあだ。