驚くように固まった僕を見て、ゆりあは面白そうに目を細めた。
「どうしたの?優太。そんなにびっくりしたような顔をして。私が話しかけたの、急すぎた?」
ゆりあの瞳のなかに映る僕の顔は、目も開き口も開いていて酷く滑稽だった。
いや、と言葉を濁した僕にゆりあはまた笑って、外の景色に目を映す。
人もまばらな車内のなかで僕たちの斜め前に腰を降ろしているおじさんが、こほんとひとつ咳払いをした。
「……まだあと、6時間もあるね」
隣にいる僕にしか聞こえないほど小さな声で、きみが言う。
「優太と、まだ6時間も一緒にいられる。こうして優太の温もりを感じていると、本当に幸せだなあって思うの」
コツン、僕の肩に重みがかかる。
ああ、なんて愛しい重みなのだろうか。
ゆりあはまぶたを伏せ、口角を僅かに緩めて微笑んでいる。
「僕も幸せだよ」
ゆりあの右手に自分の左手をそっと絡めた僕は、照れ臭さを隠すように反対側の手で鼻をかいた。
「きみが隣にいるだけで、僕も幸せ。きみがね、隣で笑っていてくれるだけで、僕も笑うことができる。きみが僕の名前を呼んでくれるだけで、僕は前を向いて歩いていけるんだよ」
最後のほうは恥ずかしくて声のボリュームが落ちてしまったけれど。
きみに、伝わってるといいなと思う。
「……優太のばか」
心配しなくても、伝わっているみたいだけれどね。
きみの真っ赤になった顔、照れると悪くなる言葉、そっぽを向くところ。
なんで僕の大好きな人はこんなにも可愛いのだろうといつも思うんだよ。
──まもなく、終電です。
お互いが心地よい無言になったそのとき、車掌さんのアナウンスが車内を巡る。
「もう、着くよ。ほら、ゆりあがしたがってた花火を買いに行こう」
少し大きめな声を出した僕を、斜め前にいたおじさんが不思議そうに振り返った。
でもそんなこと気にしない。
僕はゆりあに微笑みかけると、きみのその小さな手を離すことなく引き、扉へ向かう。
このあともきっと、楽しい時間が待っている。
きみがいれば、僕の世界はいつだって明るい。
隣で鼻唄を歌っているきみの顔を眺めながら、そっと僕は微笑んだ。