きみを乗せた自転車が商店街へ到着する頃、ゆりあは目が覚めたらしい。
眠そうな声で、優太、と呟く。
その声はかすれていて、よほどぐっすり眠れていたんだなあと思う。
ズズズと後ろから鼻をすする音が聞こえて、僕はあわててちらりと後ろに目をやりゆりあに声をかけた。
「ゆりあ、大丈夫?もしかして風邪引いた?」
「……ううん、大丈夫だよ」
「少し寒くなってきた?」
きみの声に元気がないように思えた僕は、ゆりあを気にかけながら商店街を自転車で走る。
「ふふ、優太。まだ夏だよ?いくら夕方でも、まだ寒くないよ」
「そうだね。ゆりあの言う通りだ」
「優太はばかだなあ。変なところが抜けてるよね」
けれどゆりあが僕の背中に頭をこつんと乗せながら笑うから、元気がなさそうに思えたのは寝起きだったからなのかなと安心する。
午後5時半を迎えた商店街。
至るところのお店が夕飯を食べにきた客を呼び込むために笑顔を浮かべて決まり文句を放っている。
風に乗せられるようにお肉屋のいい匂いが鼻のなかにつんと入ってくる。
ああ、美味しそうだ。今日の夕飯はきみと何を食べようか。
そんなことをひとりで考えているといつの間にかたどり着いた自転車のレンタル屋さん。
そこには借りるときもいたあの強面のおじさんがにんまりと笑みを浮かべながら僕を待っていた。
「お兄ちゃん、お帰り。彼女との公園デートは楽しかったかい?ええ?」
僕の顔を覚えていたということにも驚いたけれど、話の内容まで覚えているとは思っていなかったからそれにもとても驚いた僕。
おじさんはにやりと口角の端を持ち上げながら、どうなんだよ、と冗談めかすように笑う。