ゆりあの指先が僅かに震えて、空中で静止する。
「ゆりあ……?」
声を発したのは、おばさんだった。
おばさんは一瞬取り乱したようにソファーから立ち上がろうとしたけれどすぐに冷静さを取り戻したのか、僕を見てやんわりと笑った。
「ごめんなさい、優太くん。なんだかすぐそばに、ゆりあがいるような気がして……」
驚く僕は、何も言えない。
続けて、おじさんも声を出した。
「僕もゆりあがいるような気配がしたんだ」
「あなたも?」
「ああ。あの子が、僕たちのそばにいる。もしかしたら、あの子が亡くなってから今までずっと、ゆりあは僕たちのそばにいてくれたのかもしれないな」
カーテンの隙間からこぼれる木漏れ日。
その木漏れ日はいつの間にか親子三人を照らすスポットライトとなって、彼女らの上に降り注ぐ。
「優太くん。きみは言ったよね。ゆりあは優しい子だと」
おじさんの言葉に唇を噛み締めて頷く。
そうしたら、おじさんは目尻にしわを作りながら微笑んだ。
「僕もそう思うよ。あの子は誰よりも優しい。優しすぎるくらいにね。だから思うんだよ。あの子はこれからも僕たちのそばにいて僕たちを見守ってくれているって」
「……おじさん」
「そばにいるということは、決して幽霊としてとかそういうことではない。僕たちの心の、すぐそばにいる。なあ、そう思わないか?透子」
乾いた目にまた涙を浮かべたおじさんは、おばさんの手を固く強く握る。
そしてそのふたりの手の上に、──ゆりあの手も重なった。