泣きたいときは泣けばいいのに、涙を流すことは決して悪いことではないのに、それでもきみは泣かない。
泣かないから、心配になるんだ。
涙を流さないから、不安になるんだ。
きみの心がいつか限界を迎えて、壊れてしまうんじゃないかって。
……けれどきみは、僕がそう言っても涙を流さず笑って誤魔化すと思うから。
だって僕は知っている。
きみが誰よりもいじっぱりで素直じゃないってこと。
──お父さん、お母さん。
きみの背中に、羽が生えたように見えた。
──生きてね。
太く強く、どこまでも飛んでゆけそうな立派な羽が。
確かにきみの背中に見えたんだ。
涙が滲む。視界がぼやける。きみの背中が、霞んでいく。
けれど、こんなにもきれいなきみの背中を見逃すものかと、僕は必死に上を向き涙をこらえた。
僕の伝えた言葉に、ご両親は僕と反対に俯いて涙を流す。
ゆりあの両手が、おじさんとおばさんに少しずつ伸びていく。
──生きて、生きて、いつまでも健康でね。お父さんとお母さんの笑っている顔が私は大好きだから。お父さんとお母さんの子どもで幸せだったよ。ありがとう。
きみの手が両親に届くまであと1センチ。
おじさんとおばさんが、ふたり同時に顔を上げた。