ゆりあの前で、そんなことを言わないでほしい。
というより、ゆりあがもしこの場にいなくても、おばさんにはそんなことを言ってほしくはなかった。
だって誰よりも優しいきみは、誰よりも大好きなお母さんがこんなことを言うなんてとても悲しいと思うから。
きっとゆりあは泣いているのではないか。
不安で堪らなくなった僕は、僕の隣に静かに歩み並んだゆりあにそっと目をやる。
けれど、きみは泣いてはいなかった。
ただ唇を噛み締め、つらそうに、それでいて苦しそうに顔を歪めるゆりあの表情に、胸が何者かに鷲掴みされたように痛む。
「……優太」
ゆりあは涙を流すおばさんを見つめ、それからそんなおばさんの隣に腰をかけ優しく背中をさするおじさんを見つめ、僕の名前を呼んだ。
公で返事をすることができないからゆりあに目で返事をすると、ゆりあは前を向いたままそっと微笑んで。
「今から私が話すこと、全部伝えてほしいの。私がいることは言わないで。こんなときまでわがままでごめんなさい。でもね、お母さんとお父さんに知ってほしいから。ちゃんと前を向いて、生きてほしいから」
その微笑みは、蛹から蝶が生まれ舞うようにとてもきれいだった。
僕はこんなきみの顔を知らない。
いつもとても可愛くてきれいに笑うきみだけれど、そんなきみがこんなにも大人びた顔で笑うなんて、今まで知らなかった。
ゆりあを見て微笑み頷くと、ゆりあはありがとうと言わんばかりに僕を見て目を細めた。