どうすることもできず、いや、どうしていいのかも分からずその場にぼうっと立ち尽くしていると、誰かにポンと肩を叩かれ僕は体を強ばらせる。
「優太くん、とりあえず座りなさい。僕がお茶でも入れよう」
おじさんは僕に座るように促すと、使ったままであろう食器がたくさん積み上げられているキッチンへ向かおうとするから、僕はその手をひき止めた。
目を丸くするおじさんに、僕は気になっていることを問う。
「あの、お仕事は……」
おじさんはああ、とやんわり苦笑いを浮かべると、おばさんの方へちらりと目をやり深いため息をつく。
「透子が、ずっとあんな調子でね。娘が亡くなった現実を受け入れられないみたいで。一ヶ月前から会社には事情を話して、部下に頑張ってもらっている。本当に申し訳ないんだけどね」
僕と、それから僕の後ろにいるゆりあにしか聞こえないほど小さな声でそう言ったおじさんは、困ったように笑った。
「……優太くん、すまないな。せっかくきてくれたのに驚かせてしまっただろう」
「……いえ」
「今日は娘に線香をあげにきてくれたのか?」
なんと答えていいのか分からず、僕は言葉をつまらせた。
だって隣にきみがいるのに、線香をあげにきただなんて、あまりにも可哀想じゃないか。
自分はもう亡くなっていると分かっているはずだけれど、それでもきっとこうして自分が本当に亡くなったという現実を知るのはつらい。