僕とゆりあは玄関の前に並んで立つと、お互いに顔を見合わせ頷く。


それを合図に僕はインターホンに手をかけた。


人差し指を伸ばしてそこに少し力を込めればボタンは簡単に沈み、──ピーンポーン、と無機質な音が響く。


ふと、不安がよぎった。


──ゆりあのお母さんは、何の前触れもなく突如現れた僕を見てどう思うのだろうか。


僕を見てゆりあのことを思いだし、苦しめてしまわないだろうか。


ゆりあが望むことは全て叶えると僕はきみに言ったけれど、それでもきみのお母さんを苦しめてしまうのなら話は別だ。


きっとお母さんが悲しんでいる姿を目にすればきみも一緒に悲しむ、泣いていれば、きみも一緒に泣く。


きみは気が強そうに見えて、実はとても繊細な心を持った人だから。


そんな僕の心配をよそに、きみは鼻歌を優雅に歌いながらお母さんがでてくるのを待っている。


それが彼女の強がりなのか本心なのかは僕には到底分からなかったけれど、きみがお母さんに会うことを楽しみにしているのなら僕もきみに合わせよう。


インターホンを押してから数秒が経った。


──優太くんかな。


インターホン越しから聞こえたのはきみのお父さんの声。


僕は動揺していた。


それはきみも同じみたいで、不思議な顔をしてインターホンをただ呆然と眺めている。


だって──きみのお父さんはこの時間は仕事のはずで、このあたりにある印刷会社の社長を勤めているお父さんは夜にならなければ帰ってこない、そうきみにたくさん聞かされていたから。


僕がゆりあのお父さんに会っていたのだって、いつも夕飯の時間だった。