ゆりあがそれほどの覚悟と思いを持っているのならば、僕に行かないという選択肢はない。


爽快なブルーの空の下、少しだけ生温く吹く風を全身に感じながら、たったひとつの場所を目指してひたすら自転車を漕いだ。


そうして到着したゆりあの家。


キイ──と古ぼけた自転車が止まる金属音が僕たちの耳に響く。


ゆりあは自転車の荷台からひょいと降りると、二階建ての自分の家を見上げにんまりと笑った。


「私の家だ、懐かしい」


久しぶりに家へ帰ってこれたことがよほど嬉しいのだろう。


ついにはスキップまで始めてしまったきみに、僕は笑いながら問いかける。


「ゆりあ、もう入る?そろそろ時間もいい頃じゃないの?」


腕時計にいったん目を移したゆりあは時刻を確認してから、コクりと頷いた。


「あ、ねぇ優太」

「どうしたの?」

「お母さんには言わないでね。優太から私が見えること。きっとお母さん、優太から私が見えてるのに自分にはなんで見えないんだろうって、とても悲しんじゃうと思うから」

「……分かったよ」


そう同意の返事をしながら、心の隅で思う。


きみは本当に優しい子だと。


その優しさがときに自分を苦しめてしまっているのではないかと時折不安になるけれど、それでもきみは笑って前を向くから。


僕はそんなきみの隣に立って、せめてきみが抱え込んで倒れてしまわないようにすることしかできないんだ。