けれど、ゆりあの両親からは、というか今日はゆりあの母さんしかいないだろうけど、ゆりあの姿は見えない。
ゆりあの家の周辺まできている手前にこんなことを言うのはどうかと思うのだけれど、ゆりあは本当にそれでいいのだろうか。
自分の姿に気付かない母を見て、傷付かないのだろうか。
「ねぇ、ゆりあ」
ゆりあの気持ちが分からない僕は、ゆりあに本当にいいのかを尋ねてみることにした。
「本当にいいの?」
「……うん?」
「今日。本当に家に行ってもいいの?」
「優太、ごめん。風の音が強くて聞こえないや」
ゆりあに僕の声は届かなかったようだから、今度は少し大きめな声で話しかける。
ゆりあも聞き取りやすいように僕の体に腕をきつく回して近付いてくれた。
「ゆりあは、本当にいいの?自分の姿がお母さんに見えなくて。傷付かない?悲しくならない?」
「……それは分からない。だけど会いたいんだよ」
「例えゆりあが傷付くことになっても?」
「それでも私は家族に会いたい。お父さんはきっと仕事でいないだろうけど、私は自分の家に帰りたいの」
まっすぐすぎるほどの言葉が風に乗って僕の耳へ入り込んでくる。
どんな顔でゆりあが話しているのか僕からは見えないけれど、きっとゆりあは清々しい顔をしているとそう思った。
きみはとても真っ直ぐな強い芯を持った女の子だから。