ぐんと枝を伸ばした幹がそびえ立つ並木道、そこについている葉は爽やかなグリーンを彩っている。


春は淡い色の桜が色付いていたなあと景色を思い巡らせながら、僕は大好きなきみを乗せて並木道を自転車でひたすら走る。


「たこ焼き、美味しかったね」


並木道を抜けた先にある閑静な住宅街。


そこに入りかかったとき、ゆりあが僕のお腹に回している手を強めて言った。


それに共感するように美味しかったねと言うと、ゆりあは後ろでふふと笑って“お腹いっぱいで破裂してしまいそう”なんて冗談を言っている。


あれからふたりでたこ焼き屋さんへ行き、たこ焼きを近くの日陰で食べ終えた僕たちは、次の目的地であるゆりあの家を目指していた。


ゆりあの家には何度かお邪魔したことがあるから道はもう知っている。


もちろんゆりあもそのことを知っているから僕に道案内はしない。


「うわあ、この景色懐かしい」


それどころか、一ヶ月ぶりに見るこの光景に感動しているみたいだ。


ちらりと周りを見渡して見れば、僕も懐かしいと思える光景が広がっていた。


それもそのはずだ。


僕はゆりあが亡くなって以来、一度もゆりあの家を訪れていないのだから。


いくらゆりあの恋人だったからといって、大切な娘を亡くして僕よりも闇の底にいるゆりあの両親のもとへ足を向ける気にはどうしてもなれなかった。


お葬式の日、ゆりあの両親が僕をゆりあの部屋に案内してくれたのが最後で、だから僕もここらの景色を見るのは一ヶ月ぶりということだ。