仕方なく僕は体ひとつぶん開いていた距離を縮め、きみの額にかかっていた前髪をかき分けその真っ白な額にキスを落とした。
「ゆりあは何も気にしなくていいから。僕のことだけ考えてよ」
きみの横に肘をつき、頬に手を添える。
きっと少し僕が近付けば触れてしまいそうなゆりあの唇は微かに震えていて、次第に真っ白な頬が茜色に染まる。
それを見ていた僕は、ただゆりあに対しての愛しさが込み上げるだけ。
風の音も草の匂いもこの蒸し暑さでさえ、全てが消え去ってしまったかのように僕にはきみしか見えない。
長い睫毛を伏せ、頬を紅く染め、恥ずかしそうに唇を噛み締めたゆりあに狂ってしまいそうだ。
僕の心臓が、ドク……と一音一音強く刻む。
「……もう、考えてるよ」
なにも聞こえない、聞こえるのは僕の心臓の音だけ、そんな世界のなかできみの声が僅かに聞こえた。
え、と聞き返す僕に、きみは両手で顔を覆いながら小さく言葉を押し出す。
「優太のこと。……考えてるよ?私はいつだってずっと、優太のことだけを考えてる」
ゆりあはそう言って、僕から視線をそらすと真っ青に広がる空に目をやったから、僕も静かにゆりあから離れ同じように空を眺めた。
どこか遠くで響く、蝉が鳴き始めた音。
けれど僕は蝉の声には囚われず、きみの口から紡がれる声に耳を傾けた。
「優太、好きだよ」
ゆりあは突然にそう言って、それから照れくさそうに頬を緩めた。