でも、なぜ自転車のレンタル屋さんにきたのだろう。
ゆりあのやりそうなことや考えていることはだいたい検討ついているのに、そんなことを考えてしまう。
「おじちゃーん!自転車ひとつ貸してください」
ゆりあは叫んだけれど、当然ゆりあの声はおじさんには届かない。
全くこちらを振り向かないおじさんの背中を見ながら、ゆりあはしゅんと肩を落とした。
「そっか。おじさんには私の声聞こえないんだね」
そしていじけたようにアスファルトの上に転がっていた石ころを蹴飛ばした。
するとその石はコロコロと見事に転がったから、幽霊でも石は蹴飛ばせるんだと妙に感心する。
ツンツン、とゆりあが僕の背中をつついた。
それだけでなにが言いたいのか分かってしまった僕は、仕方ないなあとおじさんのもとへ行く。
「あの、すみません」
「おお?お兄ちゃん、自転車のレンタルかい?」
坊主頭の少しこわもてのおじさんが、僕を見て目尻に深いしわを作る。
見た目は怖いけれど、にかあっと笑ったその笑顔はとても優しいものだった。
僕はおじさんに微笑んで返す。
「はい。ひとつ、自転車借りてもいいですか?」
「おー全然いいってことよ。最近の若者は自転車乗る人も少ないからねぇ。お兄ちゃん、これからどこへ行くのかい?」
「公園に、彼女とシャボン玉をしに」
料金を渡しながら言った僕の肩をおじさんは冷やかすように強く叩いた。