立ち止まって振り向くと、ゆりあは僕を見上げてなにか企んでいる顔をしている。
ゆりあのこんなにいたずらな顔、久しぶりに見たかもしれない。
「……優太、これからどこに行こうって考えてるでしょ?」
「正解」
「ふふ、やっぱりね」
笑いながら、ゆりあは僕の頬に手を伸ばして指で頬の肉をひとつ摘まんだ。
「優太、分かりやすいんだから」
くるくると、摘まんだ指を上下左右に動かすきみに少しだけ睨みをきかせながら、けれどあきれたように僕は笑う。
そんなにも分かりやすいかな、僕って。
自分では感情をあまり表に出さないほうだと思っているけど、自分で思う僕と周りが思う僕は違うのかもしれないね。
そうだよ、どこに行こうか迷ってるんだよと素直に伝えると、ゆりあは微笑んで。
「そうだな。自分の家に帰りたいかなあ」
そう、空を見上げながら眩しそうに目を細めた。
ゆりあの家は確かここから近い。
付き合っていた頃、ゆりあのお父さんやお母さんに何度もご飯に誘われてゆりあの家にお邪魔したことがあるから、場所はだいたい覚えている。
……けれど、僕が気になるのはそこではなくて。
「ゆりあのお母さん、今家にいるの?僕の記憶が正しければゆりあのお母さん、この時間は家を開けてるんじゃないの?」
ゆりあは空から僕へ目を移した。
「え、優太すごい、よく覚えてるね」
あまりにもゆりあが目を大きくして驚くから、少しだけ笑ってしまった。