──海辺の最寄り駅から電車で約30分のところにある商店街。
1か月前、そこに新たにできたパンケーキ屋さんを目指して僕たちふたりは人混みの中を歩いていた。
「ゆりあ、この辺だったよね?」
「…………」
「この奥、だったかなあ」
「…………」
きみは電車に乗ったときから今の今まで、僕と言葉を交わしてくれない。
きっと気にしてるのだと思う。
僕と会話していたら、周りからは僕一人で話しているように見えて僕が変な人に思われるから。
だけれど、それを気にするのなら、もうそんな必要はさらさら心配ないと思う。
だって電車の車内でも、こうして商店街を歩いている今でも、僕は一人でゆりあにひたすら話しかけているんだから。
返事は返ってこないけれど、表情できみが返事をしてくれるから、僕はそれでもう満足なんだよ。
「……あ、ここかな?ゆりあ。ここだよね?」
いつのまにかたどり着いた商店街の奥にひっそりと建つ小さな店。
外観はベージュの壁にしゃれたペイントが施されていて、とても可愛らしい店だった。
ゆりあに目をやると、嬉しそうにこくこくと頷いている。
それを正解と読み取った僕は茶色をモチーフにしたドアに手をかけると、店内に足を踏み入れた。